様々な食の素材には、必ずその素材の持ち味と言われる甘味や風味が入っています。最近の巷では、「無農薬」「有機栽培」などといったフレーズをよく見かけるとは思いますが、日本人は特にそれを重視し、大切にしている節があります。もちろん人によっては味付けは薄い方が好き、濃い方が好き、といった好みもありますが、それ以前に”味付けも大事だが、それより素材本来の味や香りが見出せなければ意味がない”と考える人も少なくはないのかもしれません。いつの時代も変わることのない素朴な味というものは、どこか懐かしく、人の心をほっとさせます。
日本料理に限らず、料理は美味しく作るにあたって二つの考え方があると言われます。とにかく素材にうま味を加えていく、「足し算の料理」と、素材そのものの味を引き出し、それ以外の雑味を削ぎ落としていく「引き算の料理」です。日本料理はどちらかというと「引き算の料理」で、とにかく雑味を抜くことに重きを置いています。素材の雑味を抜くために何をするかというと、主に野菜などは水にさらします。素材を水にさらしてしまうと素材本来のうまみは多少なりとも損なわれますが、代わりに持ち味を引き出すことができるのです。それが日本料理の本質となっています。
日本料理は、フランス料理・中華料理と並んで「世界三大料理」の一つと言われておりますが、その最大の魅力は自然の素材・食材に恵まれているということです。例えば、日本は島国という特徴を活かし、魚介類が美味しく新鮮なものがよく獲られています。また、その持ち味を最大限に生かした料理が「刺身」や「お造り」なのですが、これこそ究極の”雑味を抜き、素材本来の味を楽しむ料理”とも言えます。日本以外、生ものを食べる習慣のある国はあまりないのですが、その分日本料理は、素材の本質をより伝えやすい料理なのです。